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・・・
「……」
夜の激戦は、終わるときにはあっけなく終わった。
フェイスの裏切りという、アルカーにも理解しがたい出来事に残ったフェイスたちは
あっさりと逃走を選んだ。もはやアルカー自身にも、彼らを追う気力はなかった。
それよりも――残ったフェイスに心を奪われていた。
「……」
そのフェイス――"ノー・フェイス《NoFace》"は、少女を抱えたまま
ゆっくりと近づいてくる。
アルカーはそれを身構えることもなく待つ。
「……大きな怪我はない。だが、傷口を洗い手当てをしてやらないとならない」
間近で聞くその声は力強く流麗で、無骨でありながら優しげですらあった。
「……後は、頼む」
つい先ほどまで殺しあっていたというのに。アルカーがそうすることを疑いもなく、
少女を差し出してくる。むろん、アルカーもそれを受け入れる。
「おまえは……何故……」
「オレは|フェイスじゃない。奪う者にはならない」
それはこちらの疑問に答えているようで、答えてはいなかったが。
何かが吹っ切れたかのように魂のこもった言葉に、それ以上聞く気にはなれなかった。
少女を手渡すその瞬間だけ、少しさびしげな気配が伝わってきた。
動きもしない仮面の顔だというのに、そんな表情だった気がしたのだ。錯覚だろうが。
精悍な身躯が、闇へと消えていく。
引きとめねばならない、と頭では理解していたが一歩も動けない。
ただ、腕の中で息づく少女の暖かさだけが戦いが終わったことを実感させてくれた。
……遠くから警ら車のサイレン音が響いてくる。
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