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軽い夕飯前のおやつを平らげた女子高生を見送って、夕子さんはエプロンを外した。
「ちょっと出てくる。店は適当にやっといて」
「おい、今からかよ!俺コーヒーとか面倒な料理は無理だからな」
「わかってる、あとはカレーとジュースで何とかしときなさい、すぐ戻るから」
「……親父帰ってきてるのか?」
「うん、またすぐ次の現場らしいけどね」
そう。
公にはしていないが、夕子さんは俺の母親。
左官の親父とは離婚しているが、紙切れの上でのことだ。
親父が抱えてしまった借金を返済するまでは、俺たち一家は一旦解散ということになっている。
夕子さんも雇われている身だし、本来この小さな喫茶店に俺を置く余裕はないはずだ。
雇い主の森元さんは、親父のことを恩人と呼び、今度は自分が恩を返す番だと何かと便宜をはかってくれている。
申し訳ないばかりだが、今はただその温情に甘えるしかない状況だった。
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