ストロベリームーン

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就職して十年、営業の仕事もようやく少しずつ自分のものになってきた頃のことだった。 「えらく暗くなってきたな、ひと雨きますかね」 「え?ちょっと曇ってるけど降りそうにはないよ?」 俺の言葉に、先輩の黒田さんが首を傾げた。 俺は空を見上げた。 雲とは違う黒い物がべったりと視界を覆っていて、ここで初めて俺は異変に気づいた。 手を翳してみる。 その手が見えなかった。 それを見ていた黒田さんの方が慌てた。 「お前、すぐ病院に行け!今すぐだ」 「いや、まだ仕事……」 黒田さんは、俺を自分の車に押し込んだ。 「お前今自分がどんな顔してるかわかんねぇだろ!」 怒鳴られた。 そして俺は病院でも怒鳴られた。 「自覚症状がなかったとは言わせませんよ、どうしてこんなになるまで放っておけたんですか」 「うーん、才能ですかね」 俺は間の抜けた返事をして、更に怒られた。
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