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「もちろん、嘘ですよ」
「え?」
「あれくらい言わないと三谷さん、諦めないでしょう?」
「……まあそうかもしんねぇけど」
「ふふ。だから嘘です。でもあからさまに定時で帰るのも悪いから、ちょっと残ってたんです」
うふふとうれしそうな顔のままディスプレイに向き直る。俺はぶるりと肩を竦め、ノートパソコンを開いた。
「じゃあ、小山内さんも戻って来たことだし、私上がりますね。何かお手伝いすることありますか?」
「いや……もう定時過ぎてるし、上がってくれ」
「じゃあ、お言葉に甘えて。お疲れ様でした」
藤枝はマグカップを持って立ち上がり、ぺこりと頭を下げた。黒髪がさらりと肩を滑り落ちる。
「おう、お疲れ」
藤枝は満面の笑みで席を後にした。俺たちセールスと違うデスクトップパソコンのディスプレイは、シャットダウン画面を映している。俺はぱたぱたとうちわを振った。
(女って怖ぇ……)
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