218人が本棚に入れています
本棚に追加
缶ビールとコンビニの唐揚げが並ぶテーブルの横で、スマホがメールの着信を告げる。
――あなたって、お祝いの一言も言ってくれないのね。知ったけれど薄情な人。
俺はディスプレイを眺めて嘆息する。
(何で俺が祝ってやらなきゃなんねぇんだ。こっちは間男に寝取られた亭主みてぇな気分だっつーのに)
スマホを置きビールを煽った。いつ彼女がやって来ても良いように借りたアパートは2DK。忙しい、と仕事を理由にして散々一人で暮らしていたのに、いざ彼女が来ないとなると、途端に部屋が広く感じられる。部屋の景色に馴染んでいた彼女の服や化粧品は、いつの間に無くなっていたのだろう。
(辛気臭ぇ。音でも鳴らそう)
テレビのリモコンに手を伸ばしたところで、自分の指に目が行った。
(…………)
薬指には彼女に貰ったシルバーの指輪が光っていた。存在を忘れてしまうほど、付けているのが当たり前になってしまったそれ。
テーブルに肘をつき顔の前に手を引き寄せる。
(これも外すか……)
俺は少しきつめの指輪を外し、リモコンの横に置いた。薬指にくっきりと残る跡。
(この跡が消える頃には、笑顔で祝ってやれるかな?)
俺は深く嘆息して、再び缶ビールに手を伸ばした。
最初のコメントを投稿しよう!