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藤枝はやっと俺の手を離した。
「嘘じゃありませんよ。三谷さん。じゃあ代わりに手相を見てあげます。手を出して」
「おっ。ありがとう」
三谷の手を取った藤枝は、むーとかうーんとか小さく唸って角度を変えながら真剣に見ている。そして重々しく口を開いた。
「三谷さん。葉っぱが見えますね」
「葉っぱ?」
「これは柳の葉ですね。柳の葉。今日は柳の葉の日」
「やっ、柳の葉の日って何だい? 藤枝さんは面白いなぁ」
あはははと乾いた笑いをする三谷はそのままフェードアウトするように去って行った。
「……何なんだ、あいつ?」
「さあ? 金曜日は柳葉ちゃんの日なんでしょう」
べえとピンクの背中に舌を出す藤枝に、俺は漸く得心する。柳葉というのは今年入社の新人社員だ。
「そういうことか」
「まあ、噂通りだったっていうか。最低ですね、三谷さんは」
藤枝はぷりぷりと語気を荒げた。俺は感心して「それにしてもすげぇな」と呟く。
「手相が見れるんだな」
「え?」
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