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「髪を切ったら色々変わる気がするんです」
「変わる……」
(やっぱり失恋なのか……?)
俺は自分の左手の薬指に視線を落とした。まだ指輪の跡は消えていない。うっすら日焼
けしてしまっているようだ。
「良い変化か悪い変化かは分かりませんけどね」
そう言ってにっこりと笑った。
事務所に着き入り口のドアを開けてやると、その笑顔のまま礼を言ってくる。首筋に汗が流れていた。
「今度、課のメンバーでパーッと呑みにでも行くか?」
思わず口をついた台詞に、大きく頷いた藤枝の後ろ髪が跳ねる。
「ええ、是非!」
「じゃあ、希望の店ある?」
「特に。小山内さんにお任せします」
「俺に任せたら駅前の居酒屋だぜ」
入り口に立ち止まり背中に投げかけると、くるりと振り向いて三日月に目を細めた。
「パーッと呑むんだったら、良いんじゃないんですか?」
そう言って白い歯を見せて笑う。
「…………」
吹っ切れたような爽やかな笑顔が眩しかった。
(夏……だな)
今日も暑くなりそうだ。
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