月夜の手相占い

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 コンビニで無料配布しているクーポン雑誌でチョイスしたチェーンの居酒屋に、営業三課から都合のついた山口、五十嵐、藤枝、俺の四人でやって来た。今日は週末とあってか、若い連中も多く騒がしい。このメンバーでも俺が一番年上だ。  職場と同じように俺の右手に藤枝が座る。正面では山口と五十嵐は早速課長の愚痴で盛り上がっていた。 「指輪、どうしたんですか?」 「ぶっ! いきなりだな」 「聞いちゃいけませんでした? この間、三谷さんが居たから聞きそびれちゃって」  藤枝は箸袋を折り紙のように弄びながら俺の顔を見てきた。俺は指輪の跡を撫でる。 「……振られた」 「えっ! 結構長く付き合ってた彼女さんでしたよね?」 「何スか? 振られたんスか?」 「俺も聞きたいです」  トーンの上がった藤枝の声に、正面の二人が食いついてきた。俺は全員の顔をギロリと一睨みする。 「結婚するんだと」  ため息とともに吐き捨てた。
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