月夜の手相占い

23/30
前へ
/30ページ
次へ
 藤枝は山口を一瞥して、俺の方に顔を向けた。 「あの人は誰にだってアプローチしてるんですから。ねぇ、小山内さん?」 「俺に振るなよ。三谷のことなんて知らねぇよ」 「飯野さんとか柳葉ちゃんとか。ほんっとーにサイテー」  藤枝がくしゃりと箸袋を丸めると、山口が「マジで? 俺らのアイドル、柳葉ちゃんま で?」と身を乗り出してくる。藤枝はべぇと舌を出した。 「山口くんもサイテー」  半眼になる藤枝に山口が慌てて取り繕う。 「いやいやいや! 藤枝は三課のアイドルだって」 「別にアイドルなんて目指してませんからー。でも山口くんと五十嵐さんの見積は後回しにすることにしますー」 「ええー! 藤枝ちゃーん」 「うわ、俺、もらい事故」  わざとらしくそっぽを向く藤枝に、彼女を拝む山口と額を抑え天井を仰ぐ五十嵐。子供みたいなじゃれ合いに口元が緩んだ。 (失恋かどうかは分からねぇが、元気みてぇだな)  俺は半分くらい残っていたグラスを一気に空け、ドンとテーブルに置いた。 「よし。じゃあ今日はパーッと呑むぞ」  残りの三人から「はーい」と良い返事が上がった。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

218人が本棚に入れています
本棚に追加