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「私は小山内さんの……小山内さんだけのアイドルになりたいんです」
温かい藤枝の手が巻き付く俺の左手。指輪の無い薬指。
「俺……の?」
恐るおそる聞き返すと、藤枝はこくんと頷いた。
「この間、私が言ったこと覚えてます?」
ネオンが映り込んだ茶色の瞳がキラキラと輝く。
「この間って?」
(どれのことだよ? 毎日顔を付き合わせてるから分かんねぇ)
この選択は間違っちゃいけねぇとぐるぐる思考を回していると、俺の考えを読んだみてぇに藤枝がぷっと吹き出した。
「鏡見て考えてくださいって」
(なんか聞き覚えある?)
「覚えてませんね?」
「あ、いやっ? なんか聞き覚えが、あるような……ないような……」
語尾をもにゃもにゃと飲み込むと、藤枝は「んもう!」と口を尖らせた。
「結構勇気出したんですよ、私」
「悪りぃ! この歳になると……」
藤枝は俺が言い終わる前に掴んだ手を腰の辺りまで引き下ろし、ぐいと上半身を近付けて来た。そして至近距離でピンク色の唇を静かに開く。
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