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「旦那様──…」
「───…」
ルナを抱き締めて胸の温かみに目を閉じる──
そんなグレイに外から声が掛けられた。グレイは閉められた扉に顔を向ける。
「準備が整いまして御座います──…」
「ああ…直ぐに向かう」
我が主従──執事のモーリスに促され、グレイは身体を起こすとルナをソファから立ち上がらせた。
「どこに行くの?……」
ルナはほんのりと染めたままの顔でグレイを見上げた。
グレイはルナを覗き瞳を緩める。
「まだ秘密だ…」
「………」
そういって優しく笑ったグレイにルナは釘付けになったまま、背中を支えられ部屋の扉に向かった。
カチャリと錠の外れる音がして扉が開かれる──
ルナはその目の前に広がった光景に息を飲んでいた。
ほんの数十分前までは確かに普通の通路だった筈だ。白い壁に赤い絨毯を敷き詰めた廊下を挟み、向かい側には別の部屋の扉、その近くには彫像のオブジェがあった。
だが、それらは見る影もなくなっている。
ルナは言葉もなくグレイの顔を見上げた。
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