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開かれた扉の向こう──
遥か遠くまで深い闇に埋め尽くされている。
それは重く息苦しくもなく、とても澄んだ青々と深い闇。
手前には石造りの階段が掛かり上へと伸びている。ただ一つ、それだけを構え、そこには美しい夜空の空間だけが広がっていた──
「これは…」
ルナは戸惑いも露に呟いた。
「ここは魔界に繋がって御座います」
「──…」
ルナは驚くと同時に振り返った。
すぐ後ろはたった今潜った筈のソファのある部屋であった筈だ。
だがもうそこには部屋という物は存在しない。
すっかりと周りを夜空の空間が包み込んでしまっている。
そして、背後にしたのは見知った老紳士の顔、モーリスと、夜会の広間で見かけた燕尾服の男達の姿だった。
驚いたままの表情を崩さないルナに、燕尾服の男の一人が前に出て近づいた。
男はスラリとした身体で手にした杖を自分の肘に掛け、白い手袋を片方抜き取るとその手でルナの指先を摘む。
「我が闇の主──…グレイ様の婚約者、ルナ様に是非ご挨拶を──」
とても洗練された身振りを見せて男はルナの手に腰を屈めて唇を落とした。
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