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「今日が、その三日目ですか」
成親が言うと、為末は項垂れる。
吉臣は本当に手助けのみに専念するのか、鬼と口にして以降は、ただ黙って座っていた。
「そうだ…。そして、その日からあやかしものが、この屋敷に」
獲物を逃がさないためか、と成親は心中で考える。
「何故その日に陰陽寮に言わなかったのです?」
「実は、あの日は、主上の宴を断り…」
そういう事か、と成親は苦笑する。
主上の宴を蹴って女の元へ行ったとあれば、知られたくもなかろう。
だが、その帰りに鬼に会ったのは報いではないだろうかと、友人に対して辛辣な事を思う成親である。
成親の心中を吉臣は正確に理解して、袖で口元を隠しながら、密かに笑う。
それから、何かに気がついたように顔をあげて、徐に立ち上がった。
吉臣は何かを探すように顔を巡らせ、簀子の前に立つ。
すると、夕日に照らされた簀子を、きゃらきゃらと笑いながら、小鬼が駆けていく。
それを目で追いながら、吉臣は微笑んだ。
「ひっ…」
と引き攣れた悲鳴を為末が上げると、小鬼が足を止め、為末に目を向けた。
吉臣も振り返り、為末を見つめる。
怯えようからして、これが見えているのだろうと、成親も吉臣も考えた。
念の強いあやかしものは普通の人間にも見えるが、このような小鬼は見えない事の方が多い。
吉臣は再び、小鬼に視線を向ける。
小鬼はしばらく為末を見つめていたが、急に興味を無くしたように、姿を消した。
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