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「た、助けてくれ!」
背後から聞こえた叫び声に、小鬼を見たくらいで大袈裟だな、と吉臣は思っていたが、これが普通の人間の反応である事も、もちろん知っていた。
そうやって何度も依頼され、あやかしものを退治したり、祝詞を上げたりしていたのだ。
それに、と吉臣は微笑する。
吉臣と妻である綾子の出会いは、妖怪退治から始まったのである。
あやかしものが見える綾子は、小鬼にも驚いていたものだ、と吉臣は遠い瞳をする。
『吉臣殿…』
と、震える声で名前を呼ぶ様子が、目に浮かぶようであった。
『あやかしが…』
『綾子は怖がりですね』
そんな会話を何度も、何度も、繰り返し…。
吉臣のそんな様子に気がついたのか、成親が立ち上がり、その肩を叩いてようやく、吉臣は現実へ意識を戻した。
振り返った吉臣は成親を見上げると、気が抜けたように苦笑する。
成親はもう一度吉臣の肩を叩いてから、為末を振り返った。
「大丈夫ですよ。必ず、私と吉臣殿が退治して見せますから」
成親がそう言って笑うと、吉臣は常と同じく微笑みを浮かべて、静かに控えていた。
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