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ひたひたと、廊下を歩く足音に、吉臣と成親は同時に口を閉じた。
日が沈んで、一刻は経った頃である。
吉臣と成親は目配せをし合って、頷いた。
足音が、部屋の前で止まる。
『ここかぁ』
嬉しそうに言った声が、二人の耳に届いた。
『おやおや。暢気に寝ておるわ』
鬼は部屋に足を踏み入れると、為末と会った夜のように、にたりと笑った。
その牙で、今にも為末に飛びかからんとする。
ただ、鬼が目にしているのは人形で、本物の為末は家人たちと共に、屋敷の奥へ身を潜めていた。
成親は鬼を見つめ、静かに口の中で呪を唱える。
今、人形に飛び付いた鬼は、そのまま動きを止めた。
そして、畳み掛けるように吉臣が符を放ち、叫び声を上げる暇もなく、鬼は消え去った。
後に残されたものは、為末を模した人形と、その上に降り積もった灰だけである。
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