一夜目

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「私に会わずに、帰るおつもりでしたのね」 御簾の向こうから拗ねたような声で言われて、吉臣は苦笑した。 御簾の向こうは吉臣には見えないが、その表情を想像する事は容易い。 吉臣は、起きて待っていたのかと思うと、少し申し訳無い気持ちになった。 「姫…」 謝ろうとした気配を察して、吉臣の声を姫は遮った。 首を振ったのか、微かな衣擦れの音がする。 「良いのです。分かっておりますから。少し、意地悪したくなっただけですわ」 「可愛らしいお方ですね」 そう言って淡く微笑んだ吉臣に、姫が息を飲む。 落ち着かなそうに少し身じろぎをして、姫は口を開いた。 「次はいつ…、…いいえ。お父様の事、ありがとうございました」 その礼は、救ってくれた事に対してだけではない。 それを知っている吉臣は、笑って頷いた。
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