16人が本棚に入れています
本棚に追加
/163ページ
「私に会わずに、帰るおつもりでしたのね」
御簾の向こうから拗ねたような声で言われて、吉臣は苦笑した。
御簾の向こうは吉臣には見えないが、その表情を想像する事は容易い。
吉臣は、起きて待っていたのかと思うと、少し申し訳無い気持ちになった。
「姫…」
謝ろうとした気配を察して、吉臣の声を姫は遮った。
首を振ったのか、微かな衣擦れの音がする。
「良いのです。分かっておりますから。少し、意地悪したくなっただけですわ」
「可愛らしいお方ですね」
そう言って淡く微笑んだ吉臣に、姫が息を飲む。
落ち着かなそうに少し身じろぎをして、姫は口を開いた。
「次はいつ…、…いいえ。お父様の事、ありがとうございました」
その礼は、救ってくれた事に対してだけではない。
それを知っている吉臣は、笑って頷いた。
最初のコメントを投稿しよう!