一夜目

16/17
16人が本棚に入れています
本棚に追加
/163ページ
「これで、少しは懲りるのではないでしょうか」 「他の方の元へ通うのは、まぁ仕方の無い事かもしれませんが、お母様の泣く顔を、見たくなくて」 すべては、姫が望んだ事。 吉臣はそれに少し、手を貸したに過ぎない。 「姫は優しいお方です。依頼された時は、どうしようかと思いましたが。その思いが可愛らしく、断れませんでした」 「…可愛らしいといえば、小鬼たちは可愛い子達でしたわ」 あの簀子を駆け回っていた小鬼たちはすべて、吉臣の式神であったのだ。 「そうですか。ですが、お気をつけください。あやかしものに、魅入られないよう」 「ええ。分かっていますわ」 「それでは、私はこれにて」 御簾越しに姫に微笑むと、吉臣は軽い動作で立ち上がった。 姫は何も言わずに、黙って歩き去るその背を見送ると、ため息を一つ溢して、帳台へ入る。 そして、身を横たえ、吉臣の微笑みを思い浮かべながら、静かに目を閉じた。
/163ページ

最初のコメントを投稿しよう!