ニ夜目

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「波留、那津、安紀、風結。出ておいで」 大内裏へ向かう前の庭先で、吉臣がそう言いながら手を叩くと、二十代前後の四人の女性が姿を現す。 彼女たちは全員、吉臣の式神である。 字は変えてあるが季節の名を与え、吉臣が綾子を守る為に式神としたものたちだ。 彼女たちはその名の通り、それぞれの季節の襲の袿を身に纏っていた。 波留は桜。 那津は藤。 阿紀は紅紅葉。 風結は雪の下。 彼女たちは微笑を浮かべて、吉臣からの言葉を待っている。 「今日は兄上たちが来るそうだから、支度を頼むよ」 『お任せを』 「ありがとう」 それぞれ頷く彼女たちに微笑んでから、吉臣は背後に控える従者の宗定を振り返る。 宗定は綾子の異母弟で、この屋敷に唯一残った人間だった。 「じゃあ行こうか、宗定」 吉臣がそう言うと、宗定は黙って頷いた。 毎朝、吉臣は徒歩で大内裏へ向かう。 牛車で行く事も出来るが、陰陽寮に出仕していた頃から徒歩だった為、苦にならないのである。 宗定と、取り留めもない会話をする。 時には静かに、季節をその肌に感じながら。 そうやって歩く時間が、吉臣は好きだった。
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