ニ夜目

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「おはよう、吉臣殿」 左近衛府に着くと、吉臣は先に来ていた同僚にきびきびと声をかけられた。 それは、吉臣と同じく将監の紀政孝で、二人は歳も近く、気の置けない友人同士である。 「政孝殿。おはようございます。今日はいつもより早いのですね」 微笑みながら腰を下ろす吉臣に、政孝は畏まった風に頷いた。 「ああ。少し、吉臣殿に頼みがあってな。早く出てきた」 「頼みですか。何でしょう」 「…実は、息子がおかしいのだ」 声を潜めて言った政孝に、吉臣は首を傾げる。 政孝は吉臣と同じく、十八で妻を迎えた。 そして政孝には、五歳になる男子と、生まれたばかりの姫がいる。 「おかしいとは?」 「うむ。二、三日前から、夜中に突然、屋敷を走り回ったり。木に登ろうとしてみたり。池に入ろうとしてみたり…」 「昼間ならともかく、夜中にですか」 「ああ。疲れたら眠るのは良いが、朝になって聞くと、それを覚えていないと言うのだ…」 目を閉じ、困ったように唸る政孝を、吉臣は唇に薄く笑みを乗せて、目を細めながら見つめている。 自分の子供が同じような行動をしたとしたら、同じように悩んだだろうかと、考えていた。 泣きそうにも見えるその顔は、親兄妹にも見せない顔だ。
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