ニ夜目

4/15

16人が本棚に入れています
本棚に追加
/163ページ
「吉臣殿?」 吉臣は、顔を上げた政孝に心配そうに見つめられると、いつもの柔らかい微笑みを浮かべながら、首を振った。 「何でもありません。陰陽寮には知らせたのですか?」 「いや…。おかしな気配は無いし、それだけで陰陽師を呼ぶのは気が引けて。だからこそ、こうして吉臣殿に、息子の様子を見てもらおうと…」 「分かっていますよ。一応、お伺いしておこうと思いまして」 「そうか…。それで、引き受けてくれるだろうか」 「ええ。ですが、本日は先約が」 吉臣がそう言うと、政孝は、む、と眉を顰める。 政孝が何を考えたのか、吉臣には手に取るようによく分かっていた。 そして、真面目な政孝が、自分の行動をよく思っていない事も。 「本日は早めに退出させていただいて、三条の実美様の屋敷へ行かねばなりません」 「夜までかかるのか?」 「いえ。今夜は、兄上方がいらっしゃるのです。久しぶりに、一緒に酒でも、と」 「そうか。ならば仕方がない」 吉臣の言葉に、政孝は納得したように何度も頷く。 そういった嘘はつかないと、知っているからだ。 そんな友人に微笑んで、吉臣は懐から鳥の形をした紙片を取り出した。 掌に乗せたそれに、ふっ、と吉臣が息を吹き掛けると、それは本物の鳥のように羽を広げ、舞い上がる。 そして一度旋回すると、吉臣の肩に舞い降りた。 「私の式に、見張りをさせておきましょう。あやかしが現れた時は、すぐに参りますよ」 「すまんな。いつもの行動だけなら、こちらで対処するが…」 「お気になさらず。…頼んだよ」 政孝に微笑んでから、肩に乗る式に声をかける。 式は政孝の屋敷が分かっているのか、すぐに飛び立っていった。
/163ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加