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「吉臣殿?」
吉臣は、顔を上げた政孝に心配そうに見つめられると、いつもの柔らかい微笑みを浮かべながら、首を振った。
「何でもありません。陰陽寮には知らせたのですか?」
「いや…。おかしな気配は無いし、それだけで陰陽師を呼ぶのは気が引けて。だからこそ、こうして吉臣殿に、息子の様子を見てもらおうと…」
「分かっていますよ。一応、お伺いしておこうと思いまして」
「そうか…。それで、引き受けてくれるだろうか」
「ええ。ですが、本日は先約が」
吉臣がそう言うと、政孝は、む、と眉を顰める。
政孝が何を考えたのか、吉臣には手に取るようによく分かっていた。
そして、真面目な政孝が、自分の行動をよく思っていない事も。
「本日は早めに退出させていただいて、三条の実美様の屋敷へ行かねばなりません」
「夜までかかるのか?」
「いえ。今夜は、兄上方がいらっしゃるのです。久しぶりに、一緒に酒でも、と」
「そうか。ならば仕方がない」
吉臣の言葉に、政孝は納得したように何度も頷く。
そういった嘘はつかないと、知っているからだ。
そんな友人に微笑んで、吉臣は懐から鳥の形をした紙片を取り出した。
掌に乗せたそれに、ふっ、と吉臣が息を吹き掛けると、それは本物の鳥のように羽を広げ、舞い上がる。
そして一度旋回すると、吉臣の肩に舞い降りた。
「私の式に、見張りをさせておきましょう。あやかしが現れた時は、すぐに参りますよ」
「すまんな。いつもの行動だけなら、こちらで対処するが…」
「お気になさらず。…頼んだよ」
政孝に微笑んでから、肩に乗る式に声をかける。
式は政孝の屋敷が分かっているのか、すぐに飛び立っていった。
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