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「時に吉臣。その手の傷はどうした?」
成親は、杯を傾ける吉臣の右手の甲の、少し赤く腫れている傷に気がつくと、杯を持ったまま問いかけた。
吉臣は僅かに首を傾げながら、床に杯を置いて、自分の手に目を向ける。
確かに成親に言われた通り、右手の甲に引っ掻き傷が出来ていた。
「いつの間に…。おそらく、先ほど引っ掻かれた傷でしょう」
特に気に止めていないように言った吉臣に、成親が目を眇める。
「引っ掻かれた…。女性にか」
「…兄上。何でも女性だと思うのは止めてください」
吉臣はため息を吐くと、納得したように言った成親に、困ったような苦笑を向けた。
「でも、吉臣の日頃の行いを考えると、成親殿がそう思うのも仕方がないよ」
今度は吉成に柔らかな口調で言われ、吉臣は益々困った顔をする。
成親が、と吉成は言ったが、否定していないあたり、吉成もそう思ったのだと、吉臣には分かっていた。
吉臣は諦めたように、軽く息を吐く。
そして、二人に見つめられながら、黙っているつもりだった事情を、説明する事にした。
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