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「兄上、それから吉成殿。これは本当に違います。先ほど三条に住む姫君の…」
「やはり女性ではないか」
「最後まで聞いてください。三条の実美様のお子の、幼い姫君が、あやかしものに憑かれたとおっしゃるので、先ほど行ってきたのです」
幼い姫君、と強調しつつ、吉臣が説明すると、成親と吉成は二人揃って首を傾げた。
当然の反応に、吉臣は微笑む。
「どうして吉臣が?」
「昨晩、偶然その屋敷の前を通り…」
「ほう?」
「成親殿。横槍を入れては駄目ですよ」
面白そうな顔をした成親を、吉成が窘めた。
そのやり取りにも微笑み、吉臣は言葉を続ける。
「あやかしものの気配が気になって、宗定に様子を見に行かせたら、実美様は私を知っていたようで、通してくれて」
「なるほど」
「その時は何も準備がなかったので、本日、早めの退出の許可をいただき、改めて伺った次第です」
「それで?」
その声音は、大丈夫だったのかと、弟を案じているものだ。
成親の問いかけに、吉臣は頷いた。
「無事に、姫の御身から落としましたよ」
「その姫には、何が憑いていたんだい?」
次に吉成から尋ねられると、吉臣は微笑みながら、部屋の奥に声をかけた。
「風結」
吉成の声に姿を見せた風結は、その腕に真っ白な猫を抱いていた。
それを見て、吉成が声を上げる。
風結が抱いている猫は、尾が二つに割れていた。
「猫又だね」
「はい。風結に一番懐いたので、雪と名付けました」
風結から雪を受け取りながら、吉臣は微笑んだ。
吉臣が撫でてやると、気持ち良さそうに喉を鳴らしたのだった。
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