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『逃げるんだ吉臣』
炎の壁の向こうに見えるその人の背中を、吉臣は泣きそうな顔で見つめている。
『ですが、私も…』
足を踏み出した吉臣を、その人は肩越しに振り返り、優しく笑った。
『お前の大事な姫が、お前の帰りを待っているよ』
その言葉に、吉臣は足を止めてしまった。
すると炎の向こうのその人が、それで良いと頷く。
その人は知っていたのだ。
今対峙しているものは、吉臣の命を奪ってしまうと。
その人の占いは、外れた事が無い。
『ここは私が何とかするから、お行き』
そう言って笑った姿が、吉臣が最期に見た、安倍晴明の姿だった。
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