ニ夜目

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『逃げるんだ吉臣』 炎の壁の向こうに見えるその人の背中を、吉臣は泣きそうな顔で見つめている。 『ですが、私も…』 足を踏み出した吉臣を、その人は肩越しに振り返り、優しく笑った。 『お前の大事な姫が、お前の帰りを待っているよ』 その言葉に、吉臣は足を止めてしまった。 すると炎の向こうのその人が、それで良いと頷く。 その人は知っていたのだ。 今対峙しているものは、吉臣の命を奪ってしまうと。 その人の占いは、外れた事が無い。 『ここは私が何とかするから、お行き』 そう言って笑った姿が、吉臣が最期に見た、安倍晴明の姿だった。
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