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「…よ…み様、吉臣様…」
名を呼ばれ、吉臣はゆっくりと目を開ける。
その目から一筋、涙が零れた。
それを拭い、顔を横に向けた吉臣は、心配そうに自分を見下ろす宗定の顔をその瞳に写すと、淡く微笑んだ。
「兄上たちに会って、気が緩んだのかな。……懐かしい夢を見たよ。」
「はい」
頷く宗定から視線を外し、吉臣は天井を見つめる。
懐かしいと言っても、忘れた事の無い光景だった。
「お祖父様が、私を逃がしてくれた」
そう呟いて、吉臣は泣くのを我慢するように顔を歪めると、両腕で顔を覆い隠す。
その声は、微かに震えていた。
「私は、見捨てたのだ、お祖父様を……」
あの後、安倍晴明はその時のあやかしと刺し違え、命を落とした。
それを見つけたのは、吉臣だった。
やはり駄目だと、引き返した時には、すべてが終わっていたのだ。
「私が居ても、何も出来なかったかもしれない。それでも、出来る事は、あったかもしれない」
「吉臣様…」
「そう思うと、私は自分を許せない」
それきり、吉臣は口を閉ざした。
宗定はかけるべき言葉が見つからず、沈黙する。
主に何も出来ない自分を、歯がゆく感じていた。
こういう時、宗定が吉臣の隣に居て欲しいと思う人は、今ここにはいない。
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