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しばらくの静寂の後、吉臣は茵から起き上がった。
その顔にはもう、いつもの微笑みが浮かんでいる。
心の奥底に、思いをすべて押し込めるように。
「弱音ばかり吐いていたら、それこそお祖父様に怒られるだろうね」
「…姉上にも怒られましょう」
宗定が言うと、吉臣は少し目を丸くしてから、微笑んだ。
陰陽寮を出てから、自分を責めてばかりで、何も手につかなかった吉臣を、綾子は何とかしようと必死だった。
そのお陰で、吉臣は立ち直った。
「そうだね…」
それでも、あれ以来、感情を隠す事が上手くなってしまった吉臣が、表面上は取り繕っているだけなのだと、綾子も理解していたけれど。
「彼女に怒られないように、そろそろ支度しないと。遅れてしまう」
そう言いながら吉臣が立ち上がると、宗定はいつものように、着替えを手伝い始めた。
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