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それを見送った政孝が、苦笑を浮かべて吉臣を見る。
「吉臣殿には、女性だけではなく、子供も素直なのだな」
「それはどういう意味でしょう」
「他意はない。率直な感想だ。それで、康孝はどうだろうか」
政孝に言われて、吉臣は庭で蹴鞠をしている康孝に顔を向けた。
特に変わりはない、普通の童子だ。
あやかしが憑いている気配は、何処にもない。
吉臣は部屋の中にも顔を巡らせたが、異様な気配を感じる事は無かった。
「…昨晩も、同じ事があったのですよね」
式から報告も受けていたが、吉臣は念の為そう尋ねる。
ああ、と政孝が頷くと、吉臣は少し沈黙した。
口元に白い指を当て、何やら思案する。
目を伏せ、物思いに更ける姿に、傍らに控えていた女房が頬を赤らめながら、小さく息を吐く。
政孝が咳払いをすると、恥じらうように袖で顔を隠した。
「なにか分かったか?」
顔を上げた吉臣に、政孝は僅かに身を乗り出しながら問いかける。
吉臣は微笑しながら、首を振った。
「今のところは何も。康孝殿と二人にしてもらっても、よろしいですか?」
「私は居ない方がいいのか?」
「少し、聞きたい事があります。父親がいたら、話さない事もあるやもしれませんので」
「む。確かにそうか」
政孝は頷くと、康孝を呼ぶために立ち上がる。
そして、女房たちとともに、康孝と入れ違いになる形で、部屋を後にした。
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