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「父上とのお話は、終わったのですか?」
「いえ。まだ途中なのですが、聞きたい事があります」
「私にですか?」
不思議そうに首を傾げる康孝に、吉臣は微笑を向けた。
「夜の事、本当は覚えていますね?」
「え…」
目を見開いた康孝に、吉臣はさらに笑みを深くする。
居心地悪そうに目を泳がせる康孝を、吉臣は黙って見つめていた。
その仕草が、吉臣の言葉を認めたも同然だ。
大人が相手なら、吉臣は単刀直入に聞きはしない。
誤魔化すのが得意な大人なら、尚更、もっと時間をかける。
相手が子供だからこその、吉臣の質問だった。
数十分と康孝は思ったが、実際はほんの数分後、沈黙に耐えられなくなり、口を開いた。
「…ごめんなさい」
震える声で謝った康孝に、吉臣はほっとして肩を落とした。
先ほど吉臣は、どうやって聞き出そうかと、いくつか方法を考えていたのだ。
術で追い詰めるという、子供にはやりたくない方法まで考えていたため、安堵したのである。
「この屋敷に、あやかしの気配はありません。微かな残り香のようなものはありましたが、それももう消えかけています」
つまり、ここ最近の行動は、本人の意思であると吉臣は考え、それが真実だった。
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