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「あやかしに、何を言われました?」
優しい声で吉臣が問うと、康孝は涙を零しながら口を開いた。
「困らせてしまえばいい、って…」
「何故、その言葉を言われたのですか?」
「…みんな、姫ばかり相手にするから。私を、見てくれなくなったから…っ」
泣きじゃくる康孝を、吉臣は抱き締めた。
そして、あやすようにその背を叩く。
「大丈夫です。貴方も等しく、政孝殿にとっては可愛いお子。でなければ、私に相談など、いたしますまい」
「でも…」
「貴方が、あやかしに憑かれたのではないかと、とても心配していたのです」
吉臣は康孝を離し、微笑みながらその顔を覗き込んだ。
康孝は涙を拭いながら、しゃくりあげる。
「…本当、ですか?」
「ええ。康孝殿も、姫が可愛いでしょう。姫が危ない事をしていたら、心配になるでしょう」
「はい…」
「それと同じ思いを、政孝殿は貴方にも持っています。そして姫は生まれたばかり。貴方が、守っておあげなさい」
吉臣が言うと、康孝は目を丸くした。
「私が…?」
「そうです。貴方は、兄上でしょう?」
こくりと頷く康孝の頭を、吉臣は微笑みながら撫でる。
吉臣の微笑みに、康孝は勇気付けられたようだ。
「はい。…父上に、本当の事を話します。…叱られるでしょうけれど」
「叱るのは、貴方を思っての事。貴方が大事だから、叱るのです。立派な子に、育つように」
自分の子にもそう言うだろうと、吉臣は思う。
だからこそ、吉臣は慈愛に満ちた顔で微笑み、友人の子供に言い聞かせたのだ。
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