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「なるほどな…」
酒を飲みながら、政孝は苦笑する。
政孝の屋敷の簀子縁で、吉臣と政孝は酒を酌み交わしていた。
康孝は叱られて泣いてしまったが、政孝が何事も無くて良かったと抱き締めると、ほっとしたようで、そのまま眠ったのだった。
「しかし、同じように可愛がっているつもりだったのだが…」
「姫が小さいので、仕方ないでしょう。今は、それをよく分かっていらっしゃいますよ」
そう言いながら、吉臣は酒を煽る。
微かに笑うその顔は、酔いなど知らないような、いつもと同じ顔色だ。
「そうだな…。それに、今日が懐かしくなるくらい、すぐに大きくなる」
寂しげな横顔に吉臣は笑いながら、政孝の杯を満たす。
「気が早いですよ。ゆっくりと、成長を見守ってあげてください」
「それもそうか」
ほろ苦く笑って、政孝は酒を一気に飲みほした。
吉臣は微笑み、再び酒を注ぐ。
「何はともあれ、助かったぞ。ありがとう、吉臣殿」
「私は何も。ただ、話をしただけです」
「それが良かったのだろうさ。いつまでも、家の者には言えなかっただろうからな」
「本物のあやかしではなくて、良かったですよ」
吉臣はそう言いながら自分の杯を満たすと、宙に掲げた。
政孝は笑って同じ動作をして、一緒に杯を傾ける。
その後も、二人は楽し気に酒を酌み交わし、夜は更けていった。
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