三夜目

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「どうぞ」 「ありがとう」 吉臣は、宗定が差し出した湯飲みを受け取り、微笑みながら礼を言ってから、ゆっくりと口に含む。 単一枚に上衣を羽織っているのみで、上下する喉と、僅かに見える鎖骨が、妙に艶っぽい。 従者として七年共にいる宗定には、見慣れた姿であるが。 この姿に、一体何人の女性が頬を染めるか、と考えずにはいられない。 「いつも悪いね」 空になった湯飲みを宗定に渡しながら、吉臣は苦笑する。 宗定はそれに対し、静かに首を振った。 控えて欲しいと思ってはいても、それを口には出来ない。 綾子が亡くなって、一年。 まだ、一年だ。 吉臣は未だ、哀しみの淵にいる。 それを紛らわせるための、何かが必要で。 「…お身体だけは、大事になさいませ」 それだけ言うと、宗定は頭を下げて立ち上がる。 「ありがとう」 もう一度礼を口にしてから、吉臣は茵に横になった。 それを見届けて、宗定は部屋を出る。 どこかに、吉臣を救ってくれる姫はいないものかと、宗定はひっそりと、ため息を吐いていた。
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