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吉臣は困った顔で、綾子を見つめる。
「あなたは、悲しんでもいいのですよ」
「ですが私は…」
「わたくしの前では、隠さないで下さいませ。あなたの哀しみも、弱さも、脆さも、罪も、すべて受け止めて差し上げます」
「綾子…」
「わたくしは、あなたの妻でございます。あなたをお支えする事が、わたくしの役目でございますから」
強い瞳で、綾子はそう言った。
あやかしが出れば、怯えて震えてしまうのに。
しかし、中々どうして、綾子は強い心を持っている。
吉臣は、泣きそうな顔で微笑んだ。
「綾子。私は、貴女が居てくれるだけで、救われていますよ」
「吉臣殿。あなたが自分を許さないのなら、わたくしがあなたを許します。それでは駄目ですか」
「…いいえ。ありがとうございます」
そう言いながら涙を溢す吉臣を、綾子は微笑みながらそっと抱き締めた。
その涙は、晴明がこの世を去って、初めて溢したものだ。
押し殺した声で泣く吉臣に、綾子は仕方のない人、と思いながら、黙って吉臣を包み込んでいる。
綾子の言葉、その腕の温かさに、吉臣は救われた。
それはおそらく、綾子が思っていた以上に。
その事は、吉臣が一番よく知っていた――。
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