三夜目

7/23
前へ
/163ページ
次へ
吉臣は困った顔で、綾子を見つめる。 「あなたは、悲しんでもいいのですよ」 「ですが私は…」 「わたくしの前では、隠さないで下さいませ。あなたの哀しみも、弱さも、脆さも、罪も、すべて受け止めて差し上げます」 「綾子…」 「わたくしは、あなたの妻でございます。あなたをお支えする事が、わたくしの役目でございますから」 強い瞳で、綾子はそう言った。 あやかしが出れば、怯えて震えてしまうのに。 しかし、中々どうして、綾子は強い心を持っている。 吉臣は、泣きそうな顔で微笑んだ。 「綾子。私は、貴女が居てくれるだけで、救われていますよ」 「吉臣殿。あなたが自分を許さないのなら、わたくしがあなたを許します。それでは駄目ですか」 「…いいえ。ありがとうございます」 そう言いながら涙を溢す吉臣を、綾子は微笑みながらそっと抱き締めた。 その涙は、晴明がこの世を去って、初めて溢したものだ。 押し殺した声で泣く吉臣に、綾子は仕方のない人、と思いながら、黙って吉臣を包み込んでいる。 綾子の言葉、その腕の温かさに、吉臣は救われた。 それはおそらく、綾子が思っていた以上に。 その事は、吉臣が一番よく知っていた――。
/163ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加