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「無理を言いまして、申し訳ございませぬ」
吉臣の前で、そう言いながら頭を下げるのは、二十代前半の女性だった。
どこかの貴族の北の方か、宮中で女房をしていそうな、美しく気品がある女性だ。
ただ、それが人で無い事は、その左右のこめかみあたりに生える角を見れば、一目瞭然だったが。
部屋に入る前は被衣姿であったが、今はそれを取り払っている。
吉臣が言ったわけではなく、女性は自ら正体を明かしたのだ。
無論、吉臣は部屋に入ってきた際に、気がついてはいたが。
吉臣の少し後ろに控える宗定は、驚いて目を丸くしたが、吉臣に慌てた様子はないので、今は黙している。
吉臣は、常の微笑を浮かべて、女性に頭を上げるように促す。
「大丈夫ですよ。何か事情があるのでしょうから」
「ありがとうござります。実は、吉臣様にお願いしたき議があり、参った次第なのです」
「お願いですか。それはやはり、陰陽の術が必要なのでしょうか」
「はい。ですが、陰陽寮へ行くわけにはいかず、吉臣様の元へ…。申し訳ございませぬ」
申し訳無さげに瞼を伏せる女性に、吉臣は微笑する。
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