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「暗くなってからは面倒ですし。早い方が良いでしょう?」
「…その前に一つ、約束していただきたい事がござります」
「何でしょうか」
「今回の事がどんな結果となっても、吉臣様を怨みはしませぬ。ですから、最期にはわたくしを祓って下さいませ」
女性に真っ直ぐに見つめられ、吉臣は微笑んだ。
「ええ。お約束いたしましょう。貴女は私の手で必ず、祓って差し上げます」
優しい声で言う吉臣の目を、女性はしばらく見つめた後、安心したように肩を下ろした。
吉臣が気休めで口にしたわけではないと、感じたのだろう。
実際に、吉臣はそうする事を、すぐに決めていた。
「ありがとうござります」
「では参りましょう。宗定、留守をよろしく頼むよ」
宗定が無言で頭を下げると微笑み、女性に手を差し出す。
「歩きになりますが、よろしいでしょうか?」
女性は微笑むと、その手を取って立ち上がる。
鬼となった自分に、人と変わらずに接してくれる事が、嬉しかったのだ。
「そういえば、何とお呼びすれば良いでしょうか」
思い出したように、吉臣は並んで部屋を出ながら問いかける。
「そうですね…」
女性は言いながら、庭に視線を向ける。
その目に、薄紫の花が映った。
「では、藤とお呼び下さい」
女性はそう言うと、今までの微笑みではなく、初めて楽しそうな笑顔を浮かべた。
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