三夜目

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「暗くなってからは面倒ですし。早い方が良いでしょう?」 「…その前に一つ、約束していただきたい事がござります」 「何でしょうか」 「今回の事がどんな結果となっても、吉臣様を怨みはしませぬ。ですから、最期にはわたくしを祓って下さいませ」 女性に真っ直ぐに見つめられ、吉臣は微笑んだ。 「ええ。お約束いたしましょう。貴女は私の手で必ず、祓って差し上げます」 優しい声で言う吉臣の目を、女性はしばらく見つめた後、安心したように肩を下ろした。 吉臣が気休めで口にしたわけではないと、感じたのだろう。 実際に、吉臣はそうする事を、すぐに決めていた。 「ありがとうござります」 「では参りましょう。宗定、留守をよろしく頼むよ」 宗定が無言で頭を下げると微笑み、女性に手を差し出す。 「歩きになりますが、よろしいでしょうか?」 女性は微笑むと、その手を取って立ち上がる。 鬼となった自分に、人と変わらずに接してくれる事が、嬉しかったのだ。 「そういえば、何とお呼びすれば良いでしょうか」 思い出したように、吉臣は並んで部屋を出ながら問いかける。 「そうですね…」 女性は言いながら、庭に視線を向ける。 その目に、薄紫の花が映った。 「では、藤とお呼び下さい」 女性はそう言うと、今までの微笑みではなく、初めて楽しそうな笑顔を浮かべた。
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