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「ここが、藤の君のお屋敷ですか」
屋敷といっても、それほど大きくはない。
母屋の中も、必用最低限のものしか置かれていない。
草の生い茂る庭に、ここに住む人など本当にいるのかと、誰もが思うだろう。
現に、ここに住まいしているものは、鬼なのだが。
「はい。昔は、おそらく華やかなものだったのでしょうけれど」
「きっと、暖かい家だったのでしょうね」
吉臣が微笑むと、藤の君も微笑む。
彼女が生まれ育った屋敷だ。
鬼となっても、彼女がここを愛している事に、変わりはない。
「では早速。占ってみましょう」
吉臣はそう言いながら座ると、占いの準備をする。
準備が整うと、吉臣と藤の君は向かい合って座った。
六壬式盤で占いながら、吉臣は藤の君に質問をしている。
「お母上が残したものに、心当たりはありますか?」
「いえ…。ご覧の通り家の物は少なく、わたくし一人でも、全ての物は一通り確認出来ました」
「特に気になる物は無かった、というわけですね」
「はい」
頷く藤の君に、吉臣は少し思案してから、再び式盤を回す。
「この屋敷にあるのは、確かでしょうか」
「父上は、そのように言っておりました。わたくしが、外には出られませぬから」
「それもそうですね。では、庭などは探されました?」
「いいえ。あるのならば、屋敷の中かと」
少し驚いた顔をする藤の君に、吉臣は微笑んだ。
そして立ち上がり、靴を持って来ると、簀子からそのまま庭に出た。
藤の君も、その後に続く。
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