三夜目

14/23
前へ
/163ページ
次へ
「ここが、藤の君のお屋敷ですか」 屋敷といっても、それほど大きくはない。 母屋の中も、必用最低限のものしか置かれていない。 草の生い茂る庭に、ここに住む人など本当にいるのかと、誰もが思うだろう。 現に、ここに住まいしているものは、鬼なのだが。 「はい。昔は、おそらく華やかなものだったのでしょうけれど」 「きっと、暖かい家だったのでしょうね」 吉臣が微笑むと、藤の君も微笑む。 彼女が生まれ育った屋敷だ。 鬼となっても、彼女がここを愛している事に、変わりはない。 「では早速。占ってみましょう」 吉臣はそう言いながら座ると、占いの準備をする。 準備が整うと、吉臣と藤の君は向かい合って座った。 六壬式盤で占いながら、吉臣は藤の君に質問をしている。 「お母上が残したものに、心当たりはありますか?」 「いえ…。ご覧の通り家の物は少なく、わたくし一人でも、全ての物は一通り確認出来ました」 「特に気になる物は無かった、というわけですね」 「はい」 頷く藤の君に、吉臣は少し思案してから、再び式盤を回す。 「この屋敷にあるのは、確かでしょうか」 「父上は、そのように言っておりました。わたくしが、外には出られませぬから」 「それもそうですね。では、庭などは探されました?」 「いいえ。あるのならば、屋敷の中かと」 少し驚いた顔をする藤の君に、吉臣は微笑んだ。 そして立ち上がり、靴を持って来ると、簀子からそのまま庭に出た。 藤の君も、その後に続く。
/163ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加