三夜目

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「本当に、ありがとうござりました」 灯台の灯りに照らされ、頭を下げるのは藤の君である。 吉臣は微笑みながら、いいえ、と首を振る。 「見つけてくれたのは、式神ですから」 「なれど、命じて下さらなければ、これを見つける事は叶わなかったかもしれませぬ」 藤の君は、手に握った櫛をいとおしそうに見つめる。 しばらくそうしていた藤の君は、顔を吉臣に向けると微笑んだ。 「これで、思い残す事はありません」 「本当によろしいのですね」 それは問いかけではなく、確認だった。 藤の君は何も言わず、ただ微笑んで頷いた。
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