三夜目

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「吉臣様?」 動きを止めた吉臣に、藤の君が問いかけた。 準備は済み、吉臣が呪を唱え始める筈であったのだが、吉臣は黙している。 もしや、祓う気が無くなったのかと、藤の君は思った。 藤の君はこの数時間で、吉臣の優しさを理解している。 だから、藤の君はそう思って首を傾げる。 答えを待つ藤の君に見つめられ、吉臣は警戒しながら、声を潜めて口を開いた。 「…人が来たようです」 「え…」 「人避けの結界を張ったのですが…。それを越えて来たという事は、陰陽寮の人間でしょう」 「もしや、わたくしを祓いに?」 「貴女は私の手で祓います。そう約束申し上げたでしょう。それを違えはいたしません」 「はい」 「この符を持って奥へ。声は出さないで下さい。姿は見えなくなりますが、居る事には変わりありませんので」 吉臣はそう言いながら藤の君に符を渡すと、静かに立ち上がり外へ出ていった。
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