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「吉臣様?」
動きを止めた吉臣に、藤の君が問いかけた。
準備は済み、吉臣が呪を唱え始める筈であったのだが、吉臣は黙している。
もしや、祓う気が無くなったのかと、藤の君は思った。
藤の君はこの数時間で、吉臣の優しさを理解している。
だから、藤の君はそう思って首を傾げる。
答えを待つ藤の君に見つめられ、吉臣は警戒しながら、声を潜めて口を開いた。
「…人が来たようです」
「え…」
「人避けの結界を張ったのですが…。それを越えて来たという事は、陰陽寮の人間でしょう」
「もしや、わたくしを祓いに?」
「貴女は私の手で祓います。そう約束申し上げたでしょう。それを違えはいたしません」
「はい」
「この符を持って奥へ。声は出さないで下さい。姿は見えなくなりますが、居る事には変わりありませんので」
吉臣はそう言いながら藤の君に符を渡すと、静かに立ち上がり外へ出ていった。
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