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「成親様、吉成様でしたか」
ため息を吐きながら言った吉臣に、吉成が微笑を向ける。
他人行儀に呼びかけられた事には頓着せず、ゆったりと口を開いた。
「もしかして、良いところを邪魔してしまったかな?」
「いいえ」
「率直にいうが、今宵の相手は鬼か」
「かつては人でした」
成親からの問いに、吉臣はそう言って微笑んだ。
吉臣の返答に、成親がため息を吐く。
「今は鬼だろう。陰陽寮へ連絡があった。この屋敷に、鬼が住んでいると」
「はい。ですが、あなた方に祓われるわけにはいかないのです」
「なるほど。お前が鬼を匿っていたのか」
「ご想像にお任せいたします」
鬼を匿っていたのは自分では無いと、吉臣はあえて否定をしない。
その必要も無いと、思ったからだ。
「吉臣…。魔に魅入られたか」
「そう思いたければ、ご自由にどうぞ」
「吉臣…」
微笑む吉臣に、成親は厳しい視線を向け、吉成は困った顔で見つめる。
「彼女を祓うと言うのなら、私は止めねばなりませぬ。どういたしますか?」
懐に手を入れながら、吉臣が問いかけた。
成親と吉成は、緊張した面持ちで顔を見合わせる。
と。
「お待ち下さい」
凛とした声と共に、藤の君が姿を現した。
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