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屋内に戻った二人は、再び向かい合って座る。
呪の描かれた円形の陣の、真ん中に座する藤の君は、静かな瞳をしていた。
「最期に、吉臣様に優しくしていただき、嬉しゅうござりました」
「藤の君…」
吉臣が寂しげに淡く微笑むと、藤の君は優しい瞳で吉臣を見つめた。
探し物が見つからず、途方にくれていた藤の君に、吉臣なら何とかしてくれると、教えてくれたのは数匹のあやかしだった。
最初、藤の君は迷っていた。
陰陽寮の者では無いとはいえ、吉臣が陰陽術に長けているのは事実なのだから。
けれども、あやかしにも慕われる吉臣がどういう人なのか、会ってみたいとも思ったのだ。
「吉臣様は、優しくて悲しいお方。それに、わたくしと似ている気がいたします」
「そうですか?」
「本当の想いは口にしない」
「…たしかに」
「なれど、それがあなたの強さでもある。彼らが教えてくれた通りの人でした」
「彼らは、私をどう見ているのでしょうね…」
「あなたを心配していましたよ」
藤の君の言葉に、吉臣は微笑む。
かつて自分が助けたあやかしに、心配されるとは思わなかったのだ。
あやかしにとって人など、あっという間に過ぎ去ってしまう存在だ。
今度会いに行ってみようかと思いながら、吉臣は藤の君に声をかけた。
「…そろそろ始めましょうか」
その言葉に藤の君は頷くと、微笑みを浮かべる。
「吉臣様。どうかお元気で」
「さようなら、藤の君」
吉臣も返事を返し、目を閉じると、呪を唱え始めた。
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