三夜目

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屋内に戻った二人は、再び向かい合って座る。 呪の描かれた円形の陣の、真ん中に座する藤の君は、静かな瞳をしていた。 「最期に、吉臣様に優しくしていただき、嬉しゅうござりました」 「藤の君…」 吉臣が寂しげに淡く微笑むと、藤の君は優しい瞳で吉臣を見つめた。 探し物が見つからず、途方にくれていた藤の君に、吉臣なら何とかしてくれると、教えてくれたのは数匹のあやかしだった。 最初、藤の君は迷っていた。 陰陽寮の者では無いとはいえ、吉臣が陰陽術に長けているのは事実なのだから。 けれども、あやかしにも慕われる吉臣がどういう人なのか、会ってみたいとも思ったのだ。 「吉臣様は、優しくて悲しいお方。それに、わたくしと似ている気がいたします」 「そうですか?」 「本当の想いは口にしない」 「…たしかに」 「なれど、それがあなたの強さでもある。彼らが教えてくれた通りの人でした」 「彼らは、私をどう見ているのでしょうね…」 「あなたを心配していましたよ」 藤の君の言葉に、吉臣は微笑む。 かつて自分が助けたあやかしに、心配されるとは思わなかったのだ。 あやかしにとって人など、あっという間に過ぎ去ってしまう存在だ。 今度会いに行ってみようかと思いながら、吉臣は藤の君に声をかけた。 「…そろそろ始めましょうか」 その言葉に藤の君は頷くと、微笑みを浮かべる。 「吉臣様。どうかお元気で」 「さようなら、藤の君」 吉臣も返事を返し、目を閉じると、呪を唱え始めた。
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