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からん、と音が響いて、吉臣は目を開ける。
藤の君が座していた場所には灰が積もり、その傍らの床に、櫛が落ちていた。
最後まで、藤の君が握っていたものだ。
吉臣は少し移動してそれを拾うと、優しく撫でるように触れる。
その目から涙が溢れて、櫛を濡らした。
藤の君を想い、吉臣は涙を流している。
鬼となってしまうには、藤の君は若かった。
きっと、この櫛を使いたかったであろうと、吉臣は思う。
「この櫛は貴女と共に…」
そう言いながら吉臣は微笑み、涙を拭う。
そして、櫛を懐にしまい、準備していた皮袋に残された灰を入れ始めた。
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