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「…終わりました」
吉臣は外に出ると、成親と吉成にそう告げながら、先程地面に放った符を拾った。
そうすると、成親と吉成はようやく動けるようになって、ほっと息を吐く。
「俺たちに金縛りをかけるとは…」
「いい度胸だと、誉めた方がいいのかな」
二人は、吉臣をからかうように言う。
けれど吉臣は二人の言葉には答えず、そのまま足を進めた。
その後を、成親と吉成が追いかけて行く。
「おいおい。反応してくれないと寂しいだろう」
「今の私には、そんな気力もありません」
常の微笑みもなく、疲れたように吉臣が言うと、吉成は何かを察してか、話題を変える。
「成親殿。叔父上には何と報告しましょうか」
「吉臣が祓ったと言うのは…」
「駄目でしょうね、もちろん」
「…鬼はもういないと、そう言っておいて下さい」
二人の会話に振り向く事もなく、吉臣は歩きながら答えた。
寂しげな声音に、一体何があったのだろうと、吉成が成親に心配そうな視線を向ける。
成親は首を振りながら、肩をすくめた。
そして、少し前を歩く吉臣に視線を向ける。
「吉臣は、優しいからな」
「…そうですね。昔から、優しい子です」
祓うという約束を交わした鬼にも、優しい気持ちを絶やさなかったのだろうと、二人には分かっている。
吉臣以外に祓われたくないと、彼女がそう言ったのだから。
「そこは変わってほしくはないが、優しすぎる気がしなくもない」
「そうですね」
成親の言葉に苦笑し、吉成も吉臣へ視線を向ける。
二人は吉臣の事を心配しながら、その背を見つめていた。
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