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夜空を見上げ、吉臣は息を吐く。
背後から二人の声が聞こえるが、何を話しているのかまでは、吉臣には分からない。
二人が、例えば自分の事を話していようと、今の吉臣はどうでもよかった。
はぁ、ともう一度息を吐く。
その顔に乗せた愁いは、どこぞの姫につれなくされたのかと、見えなくもない。
ただ、吉臣が今想っているのは、自分が祓った鬼だけれども。
自分に似ていると言って、微笑んだ藤の君。
吉臣も、藤の君を優しくて悲しい人だと思った。
悲しみのあまり鬼になったのに、小さな櫛をいとおしそうに見つめ、もう思い残す事は無いと言った。
きっと幸せになれただろうに、と吉臣は思わずにはいられない。
「…次はきっと、幸せに」
そう願って、吉臣は夜空を見上げていた。
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