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四夜目
月明かりの下を、一台の牛車が進む。
吉臣が日常的に使う、網代車だ。
自分の屋敷と反対方向、西の京へ向かっている。
そこに通う姫があるわけではなく、吉臣はとあるものに会うために、そこに向かっているのだ。
「この辺りでいいよ」
とある場所に着くと、吉臣は宗定に声をかけた。
そして車を降り、辺りを見渡す。
何も無い場所だ。
あるとすれば、吉臣の背丈程に、自由気ままに生い茂った草と、蓮の花の咲く沼があるくらいである。
吉臣は何の躊躇いもなく、道なき道へ足を踏み出す。
月明かりだけが頼りの道を、吉臣は迷わず歩くいていく。
宗定も、黙ってその後を追った。
少し歩くと、小さな、朽ちかけた庵が姿を見せる。
それは突然現れたように見えたが、吉臣と宗定は驚かない。
中から溢れる光に、吉臣は自然と微笑んでいた。
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