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「ありゃ。吉臣じゃないかえ?」
庵の中から現れたのは、一人の老婆だった。
盲目だが、しっかり吉臣の姿を捉えており、足取りもしっかりしている。
「はい。お久し振りです、おばば様」
吉臣の祖母ではないが、皆がそう呼ぶため、吉臣もそう呼んでいた。
微笑む吉臣に、おばばが首を傾げる。
「ついこの間あったばかりぞえ?」
「おばば様にはそうでしょうね。ですが、人は、二、三年前を、ついこの間とは言いませんよ」
苦笑する吉臣に、おばばがそれもそうかと笑う。
このおばば、人では無い。
吉臣が最初に会った童の頃から、今のままの姿で、すでに、百はとうに越えていた。
それからおばばは、吉臣の後ろにいる宗定に顔を向ける。
「後ろのは確か、宗定だったかえ」
「そうですよ。さすがおばば様。よく覚えていらっしゃる」
「当たり前ぞ」
「これは失礼しました」
吉臣は口では謝りつつも、その顔は笑っている。
おばばもそれを気配で感じ、笑みを浮かべた。
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