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「怖いよ……」
「大丈夫。もうすぐ誰かが助けに来てくれるから」
小さな双子たちが、薄暗い部屋で身を寄せ合っている。いつも見る夢――主治医の琴音にはああはいったが、事件から12年がたった今でもこの悪夢は一日も欠かさず律儀に如月のもとに訪れいた。
くり返し同じ夢を見ていると、いつの日からかそれが夢だということを、認識出来るようになっていた。そして何度も見た映画のように、次の展開も当然のように知っている。
そう、このあと一人の少年が双子たちに尋ねるんだ。いつもそこで悪夢から目が覚める。最後はどうなったのか分らない。それは映画のエンディング直前で、機能不全を起こしたブルーレイのようにとても後味が悪い。
机の上の時計に目を向けると、時刻は6時00分を示していた。計ったようにいつも通りだ。如月はベッドから腰を上げると、カーテンに手にかけた。すると今日もまた予想通りの曇り空が広がっていた。
吐息を漏らしながらリビングへ向かうと、そこには生活感の欠片も無い空間が広がっていた。早起きは三文の徳というが、家にいてもさしてやることがないため、彼は朝食を済ませると早々に学校へと向かうのが日課であった。
友人もいないくせに、小学生の時から教室には常に1番乗りだった。以前そのことをカウンセリングで話したところ、彼女は憐れむような眼差しを向けてきた。
だが恐らく今日は1番乗りというわけにはいかないだろうな……。朱里駅に向かう道中、如月は小さく溜め息を漏らした。
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