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「ねえ、お兄ちゃん」
駅へと向かう道中、先程から黙りこくっていた有紀が突然、如月のシャツの裾をつかんだ。
「キミのお兄ちゃんは、そこにいるボーズ頭だろ?」
如月は怠そうに前方を歩く、清水を顎でさした。すると有紀はにやけ顔を浮かべながら、首を横に振ってみせた。
「ううん。あれは信ちゃんだよ」
「信ちゃん? まあどっちにせよ、そのお兄ちゃんってのは勘弁してくれ」
「お兄ちゃんはさあ――」
「だから、そのお兄ちゃんっていうのは……いいや、もういい」
如月はいくらいい聞かせても無駄だと判断し、早々に諦めることにした。
「ねえ、お兄ちゃんは怖くないの?」
「怖いって何が?」
「さっきみたいなこと」
「怖いよ。怖くて足が震えてたの見えてただろ?」
「嘘だあ、超余裕かましてたじゃん」
「あいにく表情に出ない性質でね」
「ねえ、どうして怖くないの?」
「しつこいなあ……」
「ねえ、教えてよ。お兄ちゃん」
「さあね。昔にもっと怖い目に遇ってるからじゃないのか」
如月が吐き捨てるように呟くと、有紀はパッと瞳を輝かせた。
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