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あの頃、母の浮気が原因で父は酷く落ち込んでいた。そんな父の姿を見るのがとても辛かった。可哀そうだった。心から同情した……そして私は錯覚したのだ、自分は父を愛していると。何てことはない、私は最初から間違えてたんだ……。
「ねえ、どうしたの? 小夜ちゃん」
「ごめんごめん、ちょっとぼーっとしてた……そんなことよりあんたも歌いなよ」
小夜がマイクを差し出すと、優香は恥かしそうに首を横に振った。
「いいよ。私、下手クソだもん」
「気にしない、気にしない。どうせ二人きりなんだから」
小夜は豪快にワイングラスを傾けると、優香は苦笑いを浮かべた。
「でも昨日はほんと驚いたよ。だって急に小夜ちゃんが出てくるんだもん」
「それをいうなら驚いたのはこっちよ。だってあんたいきなり変質者に殺されかけてるし」
「はははっ、確かにそうだよね……でも昨日のことは思い出すだけでも怖いけど、そのおかげで小夜ちゃんとこうやってまた一緒に遊べるようになったんだから、それだけはあの犯人に感謝しなきゃだね」
「何バカなこといってんの……」
自嘲した笑みを浮かべた優香の横顔を見ると、途端に胸の奥がズキンと痛んだ。こんな私のどこがいいのよ……。
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