第十九章「昼間のカラオケと不安定な彼女」

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「あっ、感謝といえば私あの人にお礼いってなかった」 「あの人?……ああ、如月君?」 「そう、如月さんっ! あの人、ほんと凄いよね。だってあの頭のおかしい犯人から、あっという間に私たちを助けちゃうんだもん」 「そ、そうね……」  恐らく彼がいなければ、今頃二人とも只では済まなかっただろう。優香のいいぐさじゃないけど、ほんとに大したもんだわ……。小夜は黒縁メガネの不機嫌そうな顔を思い浮かべた。 「ねえ、あの人って彼女とかいるのかなあ?」 「彼女? いない、いない。皆無(・・)よ」 「そうなんだ……」 「何よ、もしかして好きになっちゃったの?」 「そういう訳じゃないけど……でもちゃんとお礼はいいたいかな」 「そっか、じゃあ今度セッティングするよ」 「ほんとっ?」  瞳を輝かせながら喜ぶ優香に、小夜はやさしい微笑みで応えた。そしてワイングラスに手を伸ばすと、ボルドー色の液体を静かに見つめた。  父との関係。彼とのこれから。そして自分の気持ち。考えなきゃいけないことは山ほどあった。だけどそのどれもが確かな答えを出す自信はなかった。取りあえず今は何も考えられない……。小夜はそう心の中で呟くと、テーブルの上に置いていたマイクに手を伸ばした。 「はい、休憩は終わり。さあ、二回戦行くわよっ!」 「えっ、まだ歌うの?」  優香の問いかけに彼女は微笑みながら大きく頷いた。
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