第十九章「昼間のカラオケと不安定な彼女」

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 小夜は恋愛運の項目をタップした。すると乙女チックなページが開く。因みに12月生まれの彼女の恋愛運は最下位だった。  小夜は再度、溜め息を漏らした。丁度その時だった、教室のドアが勢いよく開いた。現れたのは朝練を終えた早苗たちだった。 「おっすー」  早苗は片手を上げていうと小夜の隣に腰を下ろした。そして「何見てんのさ?」と、いって彼女のスマートフォンを覗き込んだ。 「……似合わねえ」 「うっせえ」 「どうよ、一日休んで少しは落ち着いた?」  小夜が不機嫌そうに唇を尖らせると、早苗はいつものように優しい言葉をかけた。 「う、うん……まあね」 「そんで、ダーリンにはお礼はいったの?」 「まあ、一応は……」  小夜はスマートフォンに目を向けながら曖昧に答えた。 「ふうん。ねえ、小夜にあのこといっていい?」  早苗は相変わらず、文庫本に目を落したままの如月に顔を向けた。 「あのことって?」  彼が聞き返すと早苗は口元を緩めながら、自身の頬っぺたをさした。すると如月は彼女の意図が伝わったらしく、興味なさげに頷いた。 「あのことって何よ?」 「実はね――」  早苗はニヤけた笑みを浮かべながら、有紀が事件のせいでテンパって何故か酒を飲んだこと、そして酔っ払い如月の頬っぺたにキスをしたこと、そして挙句の果てに兄に抱えられてタクシーで帰宅したことを彼女に伝えた。 「まあ、キスっていっても頬っぺただからさ、そんな怖い顔しなさんな」 「別にキスくらいで怒んないわよ……」  小夜は瞼を閉じながら静かに呟いた。  自分のせいでいろんな人たちに心配をかけた、そのことが何より腹立たしかった……。今まで父親以外の人間に興味がなかった彼女にとっては、これは初めての感情だった。 「まあ、いろんな人があんたのことを気にかけてくれてる、ってことよ。この幸せ者がっ!」 「そうだね」  小夜がそう呟いた時、担任の菅原が「おはよう」と、いって教室に入ってきた。すると各々は自分の席へと足早に戻ってゆく。  いろんな人か……その中に彼は含まれているのだろうか? 小夜は振り返り如月に目を向けた。すると彼は文庫本から顔を上げ、窓の外に映る曇り空をぼんやりと眺めていた。いつもの無表情で……。
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