第二十章「ひじきの思い出」

5/13
前へ
/535ページ
次へ
「おまたせ。じゃあ、いこうか」  帰り支度を終えた小夜が、微笑みながら如月のもとに訪れた。丁度その時だった、教室の中央から「もう、いい加減にしてっ!」と、いう女子生徒の声が響いた。  二人が声のした方に顔を向けると、そこには学級委員長の沢木詩織が、顔を紅潮させながら副委員長の杉村に詰め寄っている姿があった。 「だから用事があるっていってんだろ」 「いつもそうやって、自分の仕事を私に押し付けるじゃないっ!」 「とうとうキレたか……」  如月は詩織の様子を眺めながらポツリと呟いた。そしてゆっくりと自身の鞄に手を伸ばしてゆく。 「えっ?」 「いいや、こっちの話だよ。さあ、行こうか」 「ゴメン、ちょっと待って」  小夜はそういって詩織のもとへと近づいてゆく。そして二人の間に割って入ると「どうしたの?」と、優しく彼女に尋ねた。 「……杉村君がいつも私に仕事を――」 「用事があるんだから仕方ないだろ?」 「じゃあ、用事があれば沢木さんも仕事をサボってもいいわけね?」小夜は杉村を見据えると更に「今まで何度、彼女に仕事を丸投げしたわけ?」と、続けた。 「そんなのいちいち数えてないよ」 「何回くらい?」  小夜は詩織の顔を覗き込んだ。 「多分、20回以上は……」 「ってことは少なくてもこれから20回以上は、沢木さんから仕事を押し付けられても文句はいえないわよね?」  にこっと微笑みを浮かべると、小夜は静かに杉村を見据えた。 「……分ったよ」 「そう、よかった。じゃあ、早速だけど今日のプリント整理お願いね」 「えっ、今日?」 「うん。だって沢木さんと私、駅前の書店にいくって約束してるんだもん。ねえ?」小夜が同意を求めると、詩織は静かに頷いた。「ほらね、だから一人で頑張ってちょうだい」 「……分かったよ」  小夜の勢いに負けて、杉村は素直に首を縦に振った。
/535ページ

最初のコメントを投稿しよう!

787人が本棚に入れています
本棚に追加