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「おまたせ。じゃあ、いこうか」
帰り支度を終えた小夜が、微笑みながら如月のもとに訪れた。丁度その時だった、教室の中央から「もう、いい加減にしてっ!」と、いう女子生徒の声が響いた。
二人が声のした方に顔を向けると、そこには学級委員長の沢木詩織が、顔を紅潮させながら副委員長の杉村に詰め寄っている姿があった。
「だから用事があるっていってんだろ」
「いつもそうやって、自分の仕事を私に押し付けるじゃないっ!」
「とうとうキレたか……」
如月は詩織の様子を眺めながらポツリと呟いた。そしてゆっくりと自身の鞄に手を伸ばしてゆく。
「えっ?」
「いいや、こっちの話だよ。さあ、行こうか」
「ゴメン、ちょっと待って」
小夜はそういって詩織のもとへと近づいてゆく。そして二人の間に割って入ると「どうしたの?」と、優しく彼女に尋ねた。
「……杉村君がいつも私に仕事を――」
「用事があるんだから仕方ないだろ?」
「じゃあ、用事があれば沢木さんも仕事をサボってもいいわけね?」小夜は杉村を見据えると更に「今まで何度、彼女に仕事を丸投げしたわけ?」と、続けた。
「そんなのいちいち数えてないよ」
「何回くらい?」
小夜は詩織の顔を覗き込んだ。
「多分、20回以上は……」
「ってことは少なくてもこれから20回以上は、沢木さんから仕事を押し付けられても文句はいえないわよね?」
にこっと微笑みを浮かべると、小夜は静かに杉村を見据えた。
「……分ったよ」
「そう、よかった。じゃあ、早速だけど今日のプリント整理お願いね」
「えっ、今日?」
「うん。だって沢木さんと私、駅前の書店にいくって約束してるんだもん。ねえ?」小夜が同意を求めると、詩織は静かに頷いた。「ほらね、だから一人で頑張ってちょうだい」
「……分かったよ」
小夜の勢いに負けて、杉村は素直に首を縦に振った。
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