3.退屈

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3.退屈

 このようにして、ゆういちはこの暗闇の世界やって来たが、特にすることもなく、ただ存在しているだけということに苦痛を感じていた。この場所では、会話をするか、考え事をするか、眠りにつくか―この三つの選択肢しかなかった。  こうして、退屈と不安に耐えるだけの生活が始まって二週間ほどが経っただろうか。ゆういちは、この世界から抜け出すための方法を考えることに、ほとんどの時間を使っていた。  この場所から抜け出すには、まずはこの場所についてよく知らなければならないとゆういちは考えた。とは言ってもこの二週間の間、これといった変化は起きなかった。そのため、この二週間で得られたものはほとんどなかったが、とりあえずわかったことをもう一度整理することにした。  まず、この場所は、一切の光もない真っ暗闇である。体の感覚はなく、音もにおいもしない。声だけがお互いの存在を確認できる唯一の手段であった。その声も耳で音を聞いているというよりは、頭の中に直接響いているようにゆういちは感じていた。そのことは、どうやらほかの皆もそう思っているようであった。また、当然だが食事はしていない。にもかかわらず空腹を感じることはなかった。同じように、便意を感じることもなかった。考えてみれば、体の感覚がないため当たり前のことなのかもしれない。ゆういちはそういった感覚を失うことに、最初はなんとも思っていなかったが、次第に自分の中の生物としての機能が失われているということに、少し寂しさを感じた。  この世界をもしイメージするならば、暗闇の中に脳みそと、声を出すことしかできない口と、声しか聞こえない耳とが、セットで六人分浮いているような感じだろうか―そんなことをゆういちは考えていた。  
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